早期退職と希望退職に加え、最近ではFIREという言葉もよく聞きます。それぞれはどう違うのでしょう。退職を決断する前に押さえておきたいポイントを解説します。
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目次
早期退職とは?
こんにちは。Khoです。
退職というのは人生の一大転機。
悩みどころです。
早期退職というのは、定年の年齢より早くやめることをひっくるめた言い方です。何歳未満なら早期退職だと決まっているわけではないので、辞める本人の気持ちとして「早め」と感じれば、早期退職ということになります。
早期退職した人たちのブログのタイトルを見ていても、30歳代で「早期退職した」とうたっている人もいれば、私のように50歳代で「早期退職を目指す」と言っている人もいます。
狭い意味では、企業が常設している退職制度を指すことがあります。この場合は「早期退職制度」や「早期退職優遇制度」など、制度をつけて呼ばれるのが一般的です。
常設の制度を使った退職した人は、自らの意思で退職の年齢を選ぶため、人事発令では定年退職に対して「選択定年」と表記されることもあります。
希望退職とは?
これに対して希望退職という言葉は、企業が一定の期間を区切り、対象年齢とした社員に定年前の退職を呼びかけるものです。「〇〇社が3000人を削減へ」などとニュースになるのはこちらですね。
企業が希望退職を募る理由はいくつかあります。
最近増えているのは、足元の業績は好調・堅調なのに退職者を募る黒字リストラです。賃金が高い中高年・シニア層の社員を減らして組織のスリム化や若返りを図り、組織を活性化することが目的です。定年年齢の延長も一因です。
事業構造転換の典型例は、EV車へのシフトでガソリン車の技術者に希望退職を募る自動車メーカーのようなケースです。
FIREとは?
では、FIREとは何でしょうか。
これは二つの意味を合わせた言葉で、前半のFIは「Financial Independence」、つまり経済的な自立を指します。後半のREは「 Retire Early」で早期退職です。合わせると、経済的な自立を果たし、早期退職するという状況のことになります。
1990年代に米国で始まり、2010年代後半になって日本でも広く知られるようになりまりました。
常設の早期退職制度を使っても、希望退職制度に応募した場合であっても、どちらも「RE」なので、経済的な自立も果たしていれば「FIREした」と言うことができます。
希望退職はメリットが多い
希望退職制度が一定の条件を満たしている場合は、失業手当の給付などで、通常の退職時にはない優遇措置を受けることができます。
具体的には、以下のようなメリットがあります。
ただし、希望退職という呼び名の制度に応募すればすべてこの優遇を受けられるわけではありません。
希望退職制度の目的が人員整理▽離職前1年以内に設けられた制度▽募集期間は3カ月以内、などの条件を満たし、退職が自己都合によるものではなく、会社都合だと認められることが必要です。
募集の段階で会社側から説明があるはずですが、よく分からなければ退職を決断する前に、自己都合になるのか、それとも会社都合なのかを問い合わせて確認したほうがいいでしょう。
なお、自己都合は失業手当の「一般受給資格者」、会社都合の場合は「特定受給資格者」と呼ばれます。
以下、それぞれについて見ていきます。
失業手当を受け取る条件が緩やかに
自己都合で退職した場合は、退職前の2年間に被保険者であった期間が通算して12カ月以上必要です。さらに、失業保険の被保険者離職票を提出して求職の申し込みをした日から7日間の待期期間+2カ月の給付制限期間が過ぎないと、失業手当を受け取ることができません。
これに対して、会社都合であれば、受給資格は退職前1年以内に被保険者であった期間が通算して6カ月以上と短くなり、7日間の待期期間だけで失業手当を受け取ることができます。
退職してすぐに失業手当をもらえるのか、2カ月以上待たされるのかというのは大きな違いです。
失業手当の給付日数が長くなる
会社都合で特定受給資格者になった場合は、失業手当の給付日数も長くなります。
特定受給資格者は加入期間と年齢で分かれていて、たとえば失業保険に15年加入していた40歳の人が退職すると、最長で240日間にわたって失業手当を受け取ることができます。
これに対して、自己都合の場合は同じ条件であっても120日と半分になります。
会社の退職募集で対象になることが多いのは45歳以上や50歳以上です。この年齢に該当し、加入期間が20年以上あれば、給付の上限は330日なので、最長ならほぼ1年近くにわたって失業手当を受け取ることができます。
ただし、原則として4週に1回、ハローワークで失業認定を受ける必要があり、誰でも上限の日数まで受け取れるわけではありません。求人企業への応募など実質的な求職活動をしていることが条件になります。
国民健康保険料も軽減
一方、国民健康保険料は、最長で2年にわたって軽減措置の対象になります。
勤務先を早期退職すると、①任意加入という形でこれまで入っていた企業健康保険組合の保険に入る②国民健康保険に入る③配偶者などの扶養に入る、のいずれかの形で健康保険に加入しなければなりません。
このうち国民健康保険に加入する場合は、退職前の所得をもとに保険料が決まります(「FIRE直後に配偶者の扶養に入る条件は?」と「退職後の国民保険料が高額に 年度と年の混同に要注意」という記事でより詳しく説明しています)。
会社都合の退職では、給与所得が本来の30%に換算されて国民健康保険の保険料を計算します。減額措置の期間は離職日の翌日から翌年度末までなので、最長で2年になります。かなりの負担減になるため、会社都合で退職した場合は任意継続ではなく、国民健康保険に入ったほうがメリットを大きいと感じるかもしれません。
では、デメリットは
一方で、定年より早く辞めること自体のデメリットもあります。デメリットは会社都合でも自己都合でも変わりません。
金銭的な内容に限ってみると、以下のようなマイナスが生じる恐れがあります。
それぞれについて見ていきます。
生涯賃金が減少する恐れ
緩んできたとはいえ、日本の企業の多くはまだ年功的に賃金が上昇します。中途採用で転職する場合は、いまと同じ賃金がもらえるとは限りません。転職までの時間がかかるほど、賃金を得られない期間も長くなります。
厚生労働省の2020年転職者実態調査によると、転職で賃金が増加した人は39.0%、減少した人は40.1%、変わらないが20.2%となっています。
ただし、50歳以上では「増加」から「減少」を引いた数字がマイナスとなっており、転職で賃金が減った人のほうが多いという結果になっています。希望退職のターゲットになる中高年層はより慎重な判断が求められます。
FIREを目指す場合はそもそも勤め人としての安定的な賃金収入がなくなるので、当然ながら生涯賃金は大きく減ります。
社会保険料の負担が増える
勤め人は年金や健康保険料を勤務先と折半で払っています。
早期退職して別の企業などに勤めなければ、原則として国民年金や国民健康保険に入ることになり、保険料は全額を自身で負担しなければなりません。
このうち国民年金は、年間の保険料がおよそ20万円になります。会社員が入る厚生年金のように扶養の概念がないので、扶養する家族がいればその分の保険料も支払う必要があります。
国民健康保険はメリットで説明したように最長で2年の減額措置がありますが、その後は収入などに応じた額を負担することになります。こちらも扶養の概念がないので、扶養している家族の保険料も支払わなければなりません。
年金の額が減る
退職して再就職しないと国民年金(基礎年金)に上乗せされていた厚生年金がなくなるので、将来受け取る年金額が減ります。
将来の受け取り額は日本年金機構のねんきんネットで試算できます。希望退職に応募する前に、どれぐらい減るのかを把握しておくと安心です。
国民年金だけでは足りないようなら、付加年金に入って年金額を上乗せしたり、個人型確定拠出年金(iDeCo)に入ったりする方法もあります。このうち付加年金はかなりお得な制度です。「月400円の付加年金がお得 20年間の受給で納付額の10倍に」で詳しく解説していますので、よろしければこちらもお読みください。
早期退職→FIREを目指すには
早期退職だけでなく、FIREのRE=早期退職後にFI=経済的自立を果たすには、いくら準備すればいいのでしょうか。
FIREの考え方の基本は、年間の生活費の25倍の資金を用意すれば、生涯にわたって食いっぱぐれることはないというものです。
前提になっているのは、年利4%での運用です。具体的に考えてみましょう。
年間の生活費が400万円 用意した資金が1億円の場合
年利回りが税引き後で4%なら、年間の収益は400万円
生活費=収益なので元本は減らず、永久に生活費を賄える
この考え方をみて、どんな感想をお持ちでしょう?
主なものとしては、「1億円なんて無理」「家族が多いので生活費が400万円では足りない」「税引き後で年4%の利回りを維持するのは日本では難しいのでは」といったところでしょうか。
もともとアメリカ発の考え方なので、日本にそのまま当てはめるにはやや難があるのは事実です。より保守的に見積もるなら、年間の利回りは2%程度に置いたほうが安心です。
けれど、そのためにはさらに多くの資金を用意しなければならず、FIREを実現するハードルはより高くなります。
公的年金の存在も忘れずに
FIREに必要な額を考えるうえでは、公的年金の支給額も考えておく必要があります。
先ほどご説明したように、早期退職すると公的年金の額は定年まで働いた場合より減りますが、それでも老後の心強い味方であることは間違いありません。
早期退職後に必要な資金は、
①退職後から年金受給まで
②年金受給から想定寿命まで
の2段階で考えます。
このうち、①退職後から年金受給までは、準備した資金の運用益や副業の収入などで賄う必要があります。
一方、②の年金受給後は、必要額から年金受給額を差し引いた額ですむのでかなり楽になります。
例えば、生活費が月30万円で年金の受給額が15万円だとすれば、自己資金は15万円とそれまでの半分ですみます。
公的年金に対して「どうせもらえない」と懐疑的な見方をする人がいますが、個人的には、減額はされても「もらえない」ということはないと考えています。そんなことをすれば政権は吹っ飛びますし、政府の信用もなくなってしまうからです。
国民年金の保険料を納める余裕がない場合も放置せず、必ず猶予や免除の申請をするべきです。
希望退職の募集があったら?
以前から早期退職を考えていて準備も進めていた場合は、希望退職の募集に応じることで、自己都合の退職では得られないメリットを享受できます。
反対に準備不足だと感じるなら、焦らず次の募集を待つほうがいいかもしれません。退職金の上積み額に目を奪われがちですが、給与の半年~2年程度ということが多いので、数年働き続ければ取り戻せます。
賃金以外のメリットやデメリットにも目を向ける必要があります。こちらは「退職で失う12のメリット 得られる自由とどちらが大きい?」という記事で考えています。
大前提は、退職後も家族や自身が暮らしていけるかどうかです。早計は禁物です。
十分に準備ができているなら、迷うことはありません。
後は決断するだけです!
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